兵は神速を貴ぶ
へいはしんそくをたっとぶ
「で?」
ぷかーと煙草吹かして机に積まれた書類から現実逃避してる人に声をかける。
「何が『で?』なんでィ」
ああんと平隊士が見たら腰を抜かしそうな胡乱な視線を寄こされてもこちとら付き合い
には年季が入ってんだ、怖くもクソもない。
逆に睨み返す。
昼間、山崎をかばって一人で暴れたこの人の様子に違和感があったのは確かだ。
「足」
「何の事だ?」
端的に言葉を発すればシレっと言い返してくる。
「じゃ、遠慮なく」
その脚を蹴り飛ばそうとして
「いやまてまてまてまて、ソレ可笑しいだろお前」
「何キョドってんでィ、何ともないんだったらさっさとその脚差し出せや」
「だから言ってること可笑しいだろお前は…」
ここで溜息混じりに言ってくる辺り、自分の勘は当ってると確信する。
日頃なら間違いなく逆上して取っ組み合いに雪崩込むのがいつもの理だからだ。
「お前目がマジだっつーの」
やれやれシャレになんねぇと呟いた声の後煙草の香りが強くなり影が伸びる。
くしゃ、と頭を撫でられた事に驚いてその腕を強く振り払う。
「何しやがるんでぃ、…気持ち悪ィ」
「……」
「……?」
振り払われたまま、一瞬動きが止った土方さんに不審な視線を送る。
その動きに思い当たって、更に背後の気配に気付き声を上げる。
「斉藤、確保!」
「…!」
「失礼します!」
「どわっ」
ガッ、ドカ、ガシ、バタン、なんかそんな感じの効果音が暫く続いたような気がする。
「なあお前ら俺を労ってんの、それとも痛めつけてんの…」
がっくりと項垂れた人を俺が拘束してる間に斉藤が手早く様子をみてゆく。
「捻挫ですね」
ちょっとホッとしたような斉藤の声に、まったくお前ら大袈裟なんだよと聞こえたのがムカ
ついたんで拘束をほんのすこ〜し強くしてやる。
「ぐおあ、ちょ、総梧苦しいって。マジ締まってるって、オイィィ!」
ぜはーって言って大人しくなった駄目な大人を見下ろす。
「結構腫れてますから暫くは固定しといた方がいいですね」
用意周到に持ち込んで来ていた固定バンドを湿布の上から巻きつけていくのを見守って。
「じゃあ後は任せたぜィ」
「あ〜、俺仕事残ってますんで。じゃ」
「斉藤!」
「総梧」
同時に逃亡を図ったものの、距離の差でガシ、と掴まれた。
「お前このちらかした書類の責任とってくれんだろうなあああああ」
「知るかあああああああ!」
怒鳴ってくる土方さんについこっちも怒鳴り返す。こんな時だけ無駄に素早く脱出した斉藤を
恨みがましく眺めるしかなかった。三番隊に復讐を誓う。
「総梧」
こんな穏やかな声を出す男は知らない。
確保騒ぎでぶちまけた書類を嫌味たらしく踏みしめた。
「あ、ソレお前の書類。再提出な」
「ふざけんな、ちくしょおおおおおお!斉藤殺す」
とりあえず罪は逃げた奴に被せておく。